工場と住居が併存する街の価値を上げるには?東大阪市の例から考える

東大阪市高井田中1丁目地区

近年、都市部の工場の跡地に戸建てやマンションが建設されることが多くなっている。それも工業地域に多く見られる。

工業地域は用途地域の一つで、用途地域とは住居・商業・工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもので、あれこれ混ざってしまうのを防ぐために定められている。

工業地域についてわかりやすくまとめてみた

2016.06.14

工業地域内に家を建てることは許されているが、主な用途は工場のための地域であり、住居のための地域ではなく決して環境が良いとはいえない。それにも関わらず、このような状況が増えている理由としては、①住居地域や商業地域より地価が安いこと②工場は広い土地があるため、分譲戸建てやマンション建設に適していることがあげられる。

結果として、新築戸建て・新築マンション販売価格が安いため売れる。もちろん中古価格も相対的に安くなる。工業地域内の居住用の不動産を売買する際には重要事項説明で「対象不動産は、工場地域に存するため、周辺には工場等が点在しており、工場の操業や工事車両の通行に伴う騒音、振動、臭気等が生じる場合があります」という文言を入れて説明する。

しかし、実際に住み始めるといろいろと周辺工場と住民の間で摩擦が出てくる。それは日本有数の中小工場が集まる「モノづくりのまち」大阪府東大阪市も例外ではない。

この問題に取り組むため、東大阪市が新たな試みを始めた。

住宅と工場が混在する大阪府東大阪市で「住工共生」に向けた新たな試みが始まった。製造業が集まる地区で、来春にも都市計画法に基づく「地区計画」を新ルールとして導入。ワンルームマンションや危険物を扱う工場の双方を規制する措置は全国でも珍しく、工場集積を図る他地区から注目されそうだ。

ガッタゴトン、ガッタゴトン。間断ない機械音が町工場の出入り口から漏れる。別の工場の壁には金属加工などに用いるアセチレン使用の表示。その隣の民家のベランダには洗濯物が見える。

東大阪市高井田中1丁目地区2

(写真①東大阪市高井田中1丁目A地区[道路左側])

東大阪市の顔ともいえる高井田地区の中1丁目(約330世帯)の西側(A地区)は典型的な「住工混在」エリアだ。移転した工場の跡地に住宅ができ、工場と直接関係ない住民が増えた。

市はここに騒音などのトラブルを防ぐため地区計画を導入する。通常は景観統一などに利用する手法。2017年春までの決定・発行を目指す。

東側のB地区を合わせた全区域(5.6ヘクタール)で危険物を扱う工場や騒音・振動を規制するほか、住工共生を目指すA地区ではワンルームマンションを規制する。「地域に長く居住する可能性が低く工場と共存する意欲が薄い」(市の都市計画室)とみているからだ。

B地区では住宅開発を禁じる。市営住宅跡地は工場に売却するため来春に入札にかけ、移転する市の療育センター跡地に製造業を誘致する。B地区は「工場や関連施設の立地に制限する」(市のモノづくり支援室)。

(2016年12月20日日本経済新聞朝刊39面[近畿]抜粋)

もちろん、この高井田中1丁目も工業地域内だ。

高井田中1丁目地区計画図1

「地区計画」は、建築基準法に基いて自治体によって独自に定められるもので、必ずその内容を遵守しなければならない。強制力があるため、その内容に合致した建物でなければそもそも建築確認がおりないというものだ。

地区計画等とは?-芦屋市六麓荘の地区計画の例から学ぶ-

2016.02.27

この「高井田中一丁目地区計画(案)」のまちづくりの方針として以下の3点が掲げられている。

一.住民と企業がともに誇りに思える「モノづくりのまち高井田」をまもります(住工が調和した環境を構築しながら、工場の跡地や低未利用地は工場になるよう、工場を誘致します。)

二.住民と企業がお互い居住し操業するうえで、環境を悪化させることのないようにします

三.住民と企業がともに安心して居住し操業しつづけたいと思える環境につくりかえます

高井田中1丁目地区の地区計画概要(素案)は以下の通りだ。(最終案の作成過程で変更の可能性があることに注意。)

【全域共通のルール】
・工場跡地や未利用地に工場を誘致
・床面積3000㎡超の商業(スーパーなど)・娯楽(パチンコなど)施設を禁止
・1万リットル以上のガソリンなど大量の危険物を扱う工場の禁止
・騒音・振動は市の条例の基準以下に
・建物の敷地面積は80㎡以上
・日照を確保するため、建物の高さは20mまで(マンション6階の高さ)
【A地区のみのルール】
・1戸40㎡以上の住戸が3分の2未満のワンルームマンションなどは禁止
【B地区のみのルール】
・住宅、マンション、老人ホームなど居住用の建物は禁止

東大阪市のHPより)

高井田中1丁目地区計画図2

市は13年、住工共生を目指す条例を施行。高井田で住宅開発業者に工場との事前協議を求めたが話し合いは促せても規制はできないこのため強制力のある地区計画の採用に踏み切った

背景にあるのは受注減や後継者難、住宅とのトラブルなどによる工場の減少だ。1983年に1万ヵ所あった市内製造業の事業所数はほぼ半減し、法人市民税も大幅に減った。ものづくり企業集積へ「工場の跡は工場を」(野田義和市長)とする市の危機感は強い

中小企業の悩みも深い。高井田中1丁目近くでリサイクル用破砕機などを製造するホーライは工場隣接地などの購入にこの10年で4億円を投じた。鈴木雅之社長は「(住宅との摩擦を避ける)自己防衛」と話す。

市は地区計画が順調に進めば対象を他地域に広げる。だが課題は残る。

まずB地区にある「さくら公園」の扱いだ。市営住宅跡地の売却に関する13日の地元説明会では「公園はどうなるのか」と存続を望む声が相次いだ。市は「これからの問題」(モノづくり支援室)としており、調整が長引く可能性がある。

市営住宅跡地への工場誘致が実現するかも不透明だ。市幹部は「交通が便利で0.4ヘクタールのまとまった土地は珍しい」と期待するが、住宅と近接する土地売却に応じる製造業者がどれだけいるか。市の手腕が試される。

(2016年12月20日日本経済新聞朝刊39面[近畿]抜粋)

高井田中1丁目市営住宅跡地

(市営住宅跡地[B地区])

高井田中1丁目さくら公園

(さくら公園と療育センター[B地区])

高井田中1丁目A地区

(先ほどの写真を拡大すると工場の間に住宅が密集して建っているのがわかる[A地区])

高井田中1丁目地区計画

(高井田中1丁目地区[手前がB地区、奥がA地区])

順調に進めば、平成29年4月に地区計画の効力が発生する予定だ。

都市計画は強制力がなければ無秩序に広がっていく。無秩序に広がれば、都市機能の低下はもちろんのこと、財産としての価値、地価は下がっていく。無秩序な街に高いお金を出して住みたいという人なんていない。

東大阪市の取り組み、つまり「高井田中1丁目地区計画」が今後の都市部における工業地域の規制のロールモデルになるだろう。今後、どのように推移していくか注目だ。

 

東大阪市高井田中1丁目地区

あなたの不動産はいくら?

iQra-channel(イクラちゃんねる)では、気になるマンションや、ご自宅のマンションの売却価格がその場でわかる!また、どこの不動産会社が売却したのかもわかる!最新の相場価格を公開中!

ABOUTこの記事をかいた人

坂根大介

イクラ株式会社代表。1986年大阪生まれ。関西大学文学部卒業。野村證券株式会社に入社し、国内リテール業務を経て、その後三井不動産リアルティ株式会社(三井のリハウス)にて不動産売買仲介を行う。不動産売買取引の契約実務や物件調査の経験をもとに、プロ向けに不動産の調査方法や用語解説、不動産市況、一般消費者向けに不動産業界の見えにくくわかりづらい不透明な情報をわかりやすく発信している。 主な資格は、宅地建物取引士、JSHIホームインスペクター、2級FPなど。