不動産売買契約書の「引渡し完了前の滅失・毀損等」とは

不動産売買契約書の「引渡し完了前の滅失・毀損等」とは

(この項目では、FRK・宅建協会・全日・全住協の契約書を念頭に説明しており、書式や記載方法は微妙に異なっていますが、用語の意味や記入すべき内容は基本的に同じです。ここではFRKの記入方法を中心に解説しています。)

不動産(土地・建物・マンション)を売買する際、契約書に「引渡し完了前の滅失・毀損等」という項目があります。

(引渡し完了前の滅失・毀損等)

第10条 売主、買主は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売主、買主のいずれの責にも帰すことのできない事由により、本物件が滅失または毀損して本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面により通知して、本契約を解除することができます。ただし、修復が可能なとき、売主は、買主に対し、その責任と負担において修復して引渡します。
2 前項により本契約が解除されたとき、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還します。

「引渡し完了前の滅失・毀損等」の意味と内容

こちらは、物件の引渡し前に、買主と売主のいずれの責任でない事由(理由・原因の意味)により、売買対象物件が滅失、毀損したとき、その損害を誰が負担するかという危険負担に関して定めた条項になります。

滅失(めっしつ)とは、文字通り物理的に全てなくなってしまうこと、または効用を失ってしまうことを言い、毀損(きそん)とは物の一部の滅失を言います。もっとも、滅失も毀損も程度の差でしかなく、その基準についても社会通念により判断する以外ありません。

危険負担には、滅失・毀損があっても買主が売買代金を全額支払うべきとする債権者主義、売主が売買代金は請求できないとする債務者主義の考え方があります。民法は、不動産のような「特定物」売買の場合、債権者主義を原則としているため、買主が責任を負わなくてはならないことになります。

特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

民法第534条1項

しかし、この原則は売主が、所有している物件が滅失・毀損しても売買代金を全額請求できるという不公平さがあり、現実にはほとんど採用されていません

そこで、こちらの条項において、物件が毀損した場合でも、修復が可能なときは売主の負担で修復して引渡しすることで契約を続行することとし、逆に、毀損が甚大で修復するに多額の費用、多大の時間を要するときや、滅失によって、本物件の引渡しが確実に不可能になったときは、売主と買主に売買契約を解除する権利を与えています。

毀損したときに修復可能かどうかについては、修復に要する費用が、建物の評価額を上回るなど多額の費用を要するか、また、所有権の移転および引渡し日までに修復できないなど多大の時間を要するかどうかなど総合して判断することになります。

もし、こちらの条項により契約解除となった場合は、売主は、既に受け取った手付金や内金などを無利息で買主に返還し、買主は、自己登記名義、仮登記などがあれば、その登記の抹消手続きをすることの原状回復だけで済ませ、買主は代金の支払をしなくてもよいとされています(第1項、第2項)。

解除の手続きするには、互いに書面により通知しなければなりません。

契約続行と解除の選択について

第1項は、物件が滅失・毀損し、引渡しが不可能になっても契約は当然にはなくなることがないこと、売主・買主に契約を続行するか、解除するかの選択ができることとしています。これは、建物が、滅失や毀損しても土地だけで契約の目的が達せられる(土地本位の契約)こともあるからです。

売主・買主双方が解除しなかったときは、契約はそのまま続行されることになり、売主は、『第7条(引渡し)』の期日に滅失・毀損した状態で本物件を買主に引渡し、買主は、売買代金全額を売主に支払うことになります。このとき、売買代金は、滅失・毀損した分について減額することになっていません。もし、売主・買主が合意できれば、売買代金を減額して契約を結ぶことも可能です。

売主や買主の責にも帰すべき事由による滅失や毀損

「責にも帰すべき事由」とは、故意や過失という意味です。

こちらの条項は、「天災地変、その他売主、買主いずれの責にも帰すことのできない事由」による滅失や毀損のケースについて定めたものです。売主または買主の故意や過失により、物件が滅失・毀損した場合にはこちらの条項の適用はできません。

もし、売主または買主の責に帰すべき事由があったときは、次のように考えます。

①「売主」の責に帰すべき事由のとき

そもそも、売主は売買契約上、物件を引き渡すという義務がありますし、民法においても、売主は物件を買主に引き渡すまで善良なる管理者の注意をもって管理する義務(善管注意義務)があります。

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

民法第400条

売主の責任により引渡しができなかったときは、本契約『第16条(契約違反による解除・違約金)』の解除事由に該当します。売主が、第16条の債務不履行の責任を免れようというのであれば、引渡日までに自己の費用で修理・修復する以外方法はありません。

②「買主」の責に帰すべき事由のとき

買主についても、民法に規定があります。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

民法第536条第2項

つまり、売主は買主により毀損・滅失した物件をそのまま引き渡すことにより、その義務が履行されたことにになり、一方、買主は売買代金全額の支払義務を免れることができません。