不動産売買契約書の「境界の明示」とは

不動産売買契約書

(この項目では、FRK・宅建協会・全日・全住協の契約書を念頭に説明しており、書式や記載方法は微妙に異なっていますが、用語の意味や記入すべき内容は基本的に同じです。ここではFRKの記入方法を中心に解説しています。)

不動産(土地・建物・マンション)を売買する際、契約書に「境界の明示」という項目があります。

【売買代金清算型の「実測・清算型」契約書の場合】

(境界の明示)

第5条 売主は、買主に対し、残代金支払日までに、土地につき現地にて境界標を指示して境界を明示します。なお、境界標がないとき、売主は、買主に対し、その責任と負担において、新たに境界標を設置して境界を明示します。ただし、国または地方公共団体が所有または管理する道路と土地との境界については、境界標の設置を省略することができます。

 

「境界の明示」の意味と内容

明示(めいじ)とは「はっきりさせる」という意味です。こちらは、売主が売買契約締結後、残代金支払い日までに、買主に現地で境界標を指示して隣地との境界を明示することを定めた条項になります。買主に本物件の範囲等を認識してもらうことがその趣旨です。

売主は、境界標がないときは、土地家屋調査士などの資格ある者に依頼し、新たに境界標を設置してもらわなければなりません。

土地(敷地)の境界の不動産調査方法と境界標の種類について

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2017.11.27

こちらの条項は、第4条3項に「隣地が国または地方公共団体の所有または管理する道路であるときは、その立会いを省略して測量することができます」とあることから、境界明示についても、境界標の設置を省略することができるものとしています。これは境界標がないとき、境界標の設置を省略することができるのであって、境界の明示を省略することができるものではないことに注意が必要です。「国または地方公共団体が所有または管理する道路」と土地との境界の明示は、現地にて、新たに作製された測量図によりおこないます。

一般的に売主は、「売主自身が現にここが境界と認識しているところ」を明示すれば問題ないと思い込んでおり、実際そのまま取引されることもあります。しかし、隣地との間に境界標や塀等があり、隣地所有者との間に特に争いがないとして、隣地所有者との立会いを省略して明示し、明示された境界が後日、確定した境界と異なり、大きなクレームになることがあります。

FRK契約書では、隣地との境界立会いのうえ、測量図または確定測量図を作製し、境界標を指示して明示する「実測・清算」型、「確定測量・清算」型の不動産売買契約書の利用を原則としています。

契約書の型についてはこちらをご覧ください。

不動産売買契約書の「売買対象面積・測量・代金清算」とは

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2017.11.25

【売買代金清算型の「確定測量・清算型」契約書の場合】

(境界の明示)

売主は、買主に対し、残代金支払日までに、土地につき現地にて境界標を指示して境界を明示します。なお、境界標がないとき、売主は、買主に対し、その責任と負担において、新たに境界標を設置して境界を明示します。

「確定測量・清算」型の売買契約書では、確定測量図の作成・交付が売買契約の前提となり、隣接する全ての土地との境界について、関係者の立会い(境界確認=筆界確認)を得て、境界標を設置の上、確定測量図を作製することになります。したがって、「実測・清算」型の売買契約書と異なり、国または地方公共団体の所有または管理する道路(公道)と土地との境界について、境界標の設置を省略できる旨のただし書きは入っていません。

【売買代金固定型の「確定測量・清算型」契約書の場合】

(境界の明示)

売主は、買主に対し、残代金支払日までに、土地につき現地にて境界標を指示して境界を明示します。なお、境界標がないとき、売主は、買主に対し、その責任と負担において、新たに境界標を設置して境界を明示します。ただし、道路(私道を含む。)部分と土地との境界については、境界標の設置を省略することができます。

売買代金固定型においても、売主に境界標の指示による境界明示を義務付けており、境界標がないとき、売主は、土地家屋調査士などの資格ある者に依頼し境界標を新たに設置しなければなりません。ただし、道路(私道を含む)部分と土地との境界については、境界標の設置を省略することができるものとしています。

一方、「実測・清算」型の売買契約書では、土地の境界の明示について、国または地方公共団体の所有または管理する道路(公道)に限定して、境界標の設置を省略することができるものとしています。これは、公道との境界は、大半が現況と公図、地積測量図、公道所有(管理)者の道路管理台帳等の資料と一致していることと、測量の際に、隣地が公道の場合に役所等の道路査定に時間がかかることを考慮したものです。

売買代金固定型の売買契約書で、公道以外の私道についても、境界標の設置を省略することができるとしているのは、売買代金固定型が、新たに土地の測量をしない契約であり、土地と私道との境界の明示について、境界標がないとき私道の所有者(多数の場合が多い)の立会いを得て、境界標の設置(復元)をすることが困難なケースが多いことを考慮しているからです。

重複しますが、道路(私道を含む)部分との境界標がないとき、境界標の設置は省略することができるのであって、境界の明示を省略することができるわけではありません。また、常に境界標の設置を省略できるわけではなく、公図、地積測量図等と現況(本物件、隣地、道路(私道を含む)の位置や、地積)がほぼ一致していることが前提になります。道路(私道を含む)部分との境界の明示は、現地にて、U字溝・L字溝などの側溝等を利用して行うことになりますが、その際、書面にて説明することが望ましいようなときは、「境界に関する説明書」を作成して説明します。

現況測量図・測量図・確定測量図・地積測量図の違いについて

現況測量図

現況を測った測量図面で仮測量図ともいいます。隣地所有者(官民、民民のいずれ)の査定の立会いがなく、単にその土地を測量させた図面です。土地の境界について、隣地所有者に承認されているのかどうかわからない図面です。

測量図

隣地所有者の中でも官民査定を省略し、対象地に隣接する民有地との境界について隣接地所有者立ち会いのもとに境界確認を行い作製された図面です。

確定測量図

土地の境界について、隣地所有者(官民、民民どちらとも)の立会い(境界確認)を行って承認が得られ、それに基づき面積や寸法が確定された図面です。

地積測量図

法務局に備え付けられている図面です。確定測量図が作成されそれが法務局に登録されているものです。ただし、古い地積測量図は、測量技術が低かったり隣地所有者の承諾がない状態で登記されたものがあるため、古い地積測量図については、信用力が低いとされます。

分筆するには、隣地所有者との筆界確認書の添付が義務付けられており、そのため、地積測量図の信頼性は極めて高いものとなっています。しかし、かつては立会証明書(筆界ごとの義務付けはない)でよかった時代があり、さらにそれより昔の時代は、隣地所有者の立会証明書の義務付けすらありませんでした。そのため、一般的に古い地積測量図ほど信頼性が高いとは言えません。したがって、物件の地積測量図が古いもので、現況と一致していない場合は、新たに土地の測量を行う「実測・清算」型または「確定測量・清算」型による売買契約を売主・買主に勧めます。

なお、官民の官は、官吏・公務員つまり国や地方自治体を指し、民は民間つまり一般個人や法人を指します。

地積測量図を取得して何を調査すればよいのか?

地積測量図を取得して何を調査すればよいのか?

2016.06.18

売買代金固定型の売買契約書を利用してよいと考えられるのは、次のケースです。

ケース 地積測量図(法務局) 測量図面 境界標 内容
A あり 測量図あり(官民未査定) 全部あり 現況と地積測量図の地積がほぼ一致。
B なし 測量図あり(官民未査定) 全部あり 現況と測量図の地積がほぼ一致 。
C あり なし 全部あり 現況と地積測量図の地積がほぼ一致。
隣地所有者の境界確認を得ている。
D なし なし 全部あり 現況と登記簿の地積がほぼ一致。
隣地所有者の境界確認を得ている。
E あり 測量図あり(官民未査定) 一部なし 現況と地積測量図、測量図の地積が
ほぼ一致。 隣地所有者の立会を得て
境界標の復元が可能。
F あり なし 一部なし 現況と地積測量図の地積がほぼ一致。
隣地所有者の立会を得て、
境界標の復元が可能。
G なし 測量図あり(官民未査定) 一部なし 現況と測量図の地積がほぼ一致。
隣地所有者の立会を得て、
境界標の復元が可能。
H なし なし 一部なし 現況と登記簿の地積がほぼ一致。
隣地所有者の立会を得て、
境界標の復元が可能。

境界標の設置は、売主が土地家屋調査士などの資格ある者に依頼して行いますが、常に隣地所有者等の協力が得られるとは限りません。上記のケースのE、F、G、Hにおいて、境界標の一部がないか、不明の場合で、境界標の設置(または復元)が困難なときは、境界標の設置に代わる「境界に関する説明書」による明示という例外的な対応をとります。

境界標の設置ができないときは、売主から物件状況等報告書に境界標の有無や、その状況を記入の上で、境界標が設置されていないこと、および境界標の設置に必要な隣地所有者の立会いができない過去の経緯等を、買主に十分説明してもらい、買主の了解が得られたとき、例外的な方法として、売主が買主に、境界標の設置に代えて「境界に関する説明書」を交付・説明することにより対応するものです。

この境界に関する説明書は、売主の責任で売主本人が作成します。しかし、現実的に売主がこれを作成することは技術的にも困難が伴いますので、売主が作成できない場合には土地家屋調査士や測量士などの専門家に依頼するようにします。仲介業者は、作成の仕方などについてアドバイスすることにとどまるようにします。

なお、境界に関する説明書により境界明示を行い、後日、境界について隣地所有者との間に紛争が発生したときは、売主は、免責の特約(引渡後、境界について隣地所有者との間に紛争が発生したとしても、売主は一切責任を負わず、買主の責任と負担で処理解決する。)がない限り、責任を免れることはできませんので、宅建業者は、このことについて売主に十分説明して理解してもらう必要があります。

ただし、売主が希望するからといって、安易に免責特約を利用することは避けなければなりません。また、売主免責の特約を付した場合は、将来の境界に関するリスクについては買主が負うことを、買主に十分説明して、納得・了解してもらうことが必要です。

境界に関する説明書の特約(隣地用)

第5条にかかわらず、本物件と◯◯側隣地(◯◯番◯)との境界については、境界標の設置ができないため、売主は、買主に対し、境界標の設置に代えて「境界に関する説明書」を交付・説明することにより明示するものとし、買主は、これを承諾しました。

この場合の境界に関する説明書はこちら

境界に関する説明書の特約(道路用)

売主は、買主に対し、第5条ただし書に基づき、本物件と◯側公道(私道)との境界について、境界標の設置に代えて「境界に関する説明書」を交付・説明することにより明示するものとし、買主は、これを承諾しました。

この場合の境界に関する説明書はこちら

道路が私道の場合、公道を私道におきかえます。

 

境界の明示の注意点

こちらの条項は、境界に関するトラブルを未然に防止するため、売主に対し境界標があればその明示を、境界標がなければその設置を義務づけていますが、宅建業者にも留意すべきことはあります。

まず、どのような契約を締結するにしても、確定測量図または測量図等の測量図面の有無、法務局備え付けの地積測量図の有無、境界石および境界線(ブロック等の場合、中心か、内側か、外側か)ならびに隣地境界にあるフェンス、ブロック等の所有権の帰属、隣地からの建物の屋根、庇(ひさし)、バルコニーや塀等の境界越境物の有無を確認しておかなければなりません。

境界等の確認の結果、隣地からの越境物、また逆に隣地への越境物があることが判明した場合、対処の方法について特約や覚書が必要です。

売買契約前に作成されている測量図面については、現況との相違がある場合も散見されます。測量を行うかどうかを問わず、宅建業者として、現地にてテープをあてて確認する等十分留意する必要があります。

物件状況等報告書に「境界・越境の状況欄」が設けられています。物件状況等報告書は売主に記載してもらうものですが、宅建業者も売主に対し、境界に関する問題の重要性を説明し、この欄に正確に記載をしてもらうよう求めるとともに、買主に対しても十分理解を求めておく必要があります。

 

越境がある場合の特約例について

越境是認の特約

買主は、本物件について◯側隣接地◯◯◯番◯◯からの◯◯◯の越境があることを確認し、現状のまま買受けます。

越境を認めたまま契約を行う場合の特約例です。買主に現地にて越境内容を十分に説明しておかなければなりません。

隣地からの承諾書の取得を条件とする場合の特約

1 買主は、本物件について◯側隣接地◯◯◯番◯◯からの◯◯◯の越境があることを確認し現状のまま引渡しを受けるものとします。

2 売主は、前項の隣接地所有者◯◯◯◯◯◯より当該越境部分を隣接地所有者が建物を建て替える時までに除去する旨の承諾書を取得します。

3 前項の書面が平成◯年◯月◯日までに取得できない場合には、売主は、買主に対し、本契約を解除することができるものとし、解除した場合、売主は買主に受領済の金員を無利息にてすみやかに返還しなければなりません。

売買物件について、隣地からの越境が認められる場合に、隣地よりその承諾書の取得を条件に、当該越境の存在を前提として取引する場合の特約です。

隣地への越境がある場合の特約

売主は、本物件建物◯側部分の一部が隣接地(◯番◯)に越境しているため、所有権移転の時期までに自己の責任と負担において越境部分を撤去、補修して、買主に本物件を引渡します。

隣地とすでに話し合いができている場合で、買主がその内容を引き継ぐことを了解した時は、その旨、物件状況等報告書の「その他買主に説明すべき事項」に記入し本特約を用いず処理するケースもあります。

 

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ABOUTこの記事を監修した人

坂根大介

イクラ株式会社代表。1986年大阪生まれ。関西大学文学部卒業。野村證券株式会社に入社し、国内リテール業務を経て、その後三井不動産リアルティ株式会社(三井のリハウス)にて不動産売買仲介を行う。不動産売買取引の契約実務や物件調査の経験をもとに、プロ向けに不動産の調査方法や用語解説、不動産市況、一般消費者向けに不動産業界の見えにくくわかりづらい不透明な情報をわかりやすく発信している。 主な資格は、宅地建物取引士、JSHIホームインスペクター、2級FPなど。