不動産売買契約書の「抵当権等の抹消」とは

不動産売買契約書の「抵当権等の抹消」とは

(この項目では、FRK・宅建協会・全日・全住協の契約書を念頭に説明しており、書式や記載方法は微妙に異なっていますが、用語の意味や記入すべき内容は基本的に同じです。ここではFRKの記入方法を中心に解説しています。)

不動産(土地・建物・マンション)を売買する際、契約書に「抵当権等の抹消」という項目があります。

(抵当権等の抹消)

第8条 売主は、買主に対し、本物件について、第6条の所有権移転時期までにその責任と負担において、先取特権、抵当権等の担保権、地上権、賃借権等の用益権その他名目形式の如何を問わず、買主の完全な所有権の行使を阻害する一切の負担を除去抹消します。

「抵当権等の抹消」の意味と内容

こちらは、売主が所有権移転の時期までに、抵当権など買主の完全な所有権を阻害する一切の負担を除去抹消しなければならないこと、抹消のための費用は売主の負担であることを定めた条項になります。

住宅ローンのように借金の金額が大きい場合、借金の担保として不動産を担保にします。もし、住宅ローンを返せなくなった場合、金融機関(銀行等)は裁判所に申し立てて、その担保になっている不動産を競売にかけ、不動産を売ったお金から貸したお金を優先的に返してもらいます。このように貸したお金が返ってこないときに、不動産を売って回収できる権利を「抵当権」といい、不動産を抵当権をつけることを「抵当権設定」といいます。この権利を明らかにするために行うのが「抵当権設定登記」で、金融機関を抵当権者、住宅ローンの借入者を抵当権設定者といいます。

抵当権設定登記についてわかりやすく説明する

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2017.01.12

売主には、不動産を買主に引き渡す義務だけではなく、真っさらな完全な所有権を与える義務があります。そのため、所有権移転の時期までに物件に設定されている抵当権等を抹消しなければなりません。その抹消のための費用(抵当権抹消登記等)は売主の負担となります。

第6条の所有権移転についてはこちらをご覧ください。

不動産売買契約書の「所有権移転登記等」とは

不動産売買契約書の「所有権移転登記等」とは

2017.11.14

所有権行使を阻害する負担とは?

先取特権と抵当権は、所有権の交換価値を制約する担保物権、地上権と賃借権は、使用や収益を制約する用役的権利(用益権)のそれぞれ典型的なものであり、所有権行使を阻害するため、売主はこれらの負担を除く義務があります。

また、こちらの条項には記載されてはいませんが、留置権、質権、根抵当権、永小作権、地役権、使用貸借権についても除去抹消が必要です。そのほかに、特別法上の仮登記担保、判例で認められた譲渡担保、所有権留保等の諸権利、差押、仮差押、仮処分、および税法関係の差押等も、所有権を阻害しますので、除去抹消しなければなりません。

先取特権(さきどりとっけん)

債権者が、法律の規定に基づきその債務者の財産から、ほかの債権者より先に債権の弁済を受けることができる権利のこと。

地上権(ちじょうけん)

他人の土地を借りて、その上に建築物などを造る権利で、賃借料の定めなく自由譲渡でき、地主の承諾は不要。

地上権についてわかりやすくまとめた

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2016.06.23

賃借権(ちんしゃくけん)

他人の土地を借りて使う権利で、その上に建物を立てて使用することが一般的。譲渡の場合、地主の承諾が必要。地主などから土地を借りて、建物を建て使用しているのが一般的で、当然地代(=借りている土地代金)を支払う。この賃借権は、土地を借りて使う権利のため、必要なくなったときなどその権利を譲渡するときには地主の承諾が必要になる。その際は、慣例として承諾料が発生する。

留置権(りゅうちけん)

他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利。物を、自分の手元にとどめておく権利。

質権(しちけん)

債権の担保として質権設定者から受け取った物を質権者が占有し、その物について他の債権者を差し置いて優先的に弁済を受けることができる権利。

根抵当権(ねていとうけん)

一定の範囲内の不特定の債権を、極度額の範囲内において担保するために不動産上に設定された担保物権のこと。極度額とは担保のMAX額のことであり、その範囲内であれば借りられるキャッシング利用枠のようなもの。

永小作権(えいこさくけん)

小作料という金銭を支払い、他人の土地で耕作や牧畜をする権利で、永小作人は収穫物を全て手にすることができる。

地役権(ちえきけん)

他の土地の便益を確保するために設定される権利で、自分の土地を利用するためには、他人の土地を借りて利用しなければならないというケースに設定されることが多い。

使用貸借権(しようたいしゃくけん)

当事者の一方(借主)が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方(貸主)からある物を受け取ることを内容とする契約。不動産を有償で貸し付ける契約が「賃貸借契約」で、無償で貸し付ける契約は「使用貸借契約」と呼ばれる。実際には使用貸借契約は、会社とその経営者の間で締結されたり、親子間で締結されることが多い。また契約書が存在せず、口約束で行なわれることも多い。

宅建業者は、買主の完全な所有権の行使を阻害する物件を媒介するとき、その負担がどのような内容のものであるか、どの時点で除去抹消できるのか調査をし、買主に告知する必要があります。また、その負担が売買代金を上回るときは、慎重な調査をし、買主の諸権利が保全される方法で取引を進める必要があります。

同時抹消とは?

こちら条項では、売主に対し、所有権移転の時期までに抵当権等を除去抹消することを定めています。本来、売主は自己資金または受領した内金で住宅ローンなどの債務を完済し、残代金決済の前に抵当権等を抹消(抵当権抹消登記)しておかなければなりません。

しかし、現実的に、売主が決済前に抵当権等の抹消を完了できるケースは、多くはありません。買主からもらう売買代金の残代金の一部により、住宅ローン等の債務が完済され、抵当権等の抹消手続きに入るというのが、一般的な決済方法です。このように、残代金支払日に、残代金の授受・債務の完済・抵当権等の抹消登記申請・所有権移転登記申請の手続きを同時に行うことを同時抹消といいます。

同時抹消は、買主からの残代金を受領した売主が、その受領した金銭を債権者に支払うことによって抹消を行うことになるため、こちらの条項の「所有権移転時期までに」という部分に違反している可能性があります。そのため、実務においては、同時抹消の特約を入れることが一般的です。

同時抹消の特約①

第◯条(抵当権等の抹消)に定める抵当権等の除去抹消の時期について、本物件に設定されている抵当権(根抵当権)については、売主が買主から受領する残代金(の一部)を充当して、その債務を完済し抹消することとします。このため、前記抵当権(根抵当権)の抹消登記については、第△条(所有権移転登記等)に定める所有権移転登記と同時にその申請手続を行うことを、売主及び買主は確認しました。また、これに伴い、第◯条の「第□条の所有権移転時期までに」は「第△条の所有権移転登記の時期までに」と読替えることとします。

同時抹消の特約②

売主、買主は、売主が買主から受領する残代金(の一部)で、本物件に設定されている抵当権(根抵当権)に係る債務を完済するため、第◯条(抵当権等の抹消)の抵当権(根抵当権)の抹消登記申請手続については、第△条(所有権移転登記等)の所有権移転登記の申請手続と同時に行うことを確認しました。

宅建業者は、契約書の条項と実際の同時抹消の段取りとの関係を、買主に十分に説明し、納得しておいてもらう必要があります。

所有権の負担に関する特約について

賃貸マンションやアパートの売買、オーナーチェンジ物件など建物賃借権(建物賃貸借契約)の負担付で売買する場合は完全な所有権でない状態で売買を行うため、特約が必要となります。

①建物賃貸借の負担付売買の特約

建物賃貸借の負担付売買の特約

1 売主、買主は、本契約締結時に本物件につき売主と◯◯◯◯との間にて別紙のとおり平成◯年◯月◯日付建物賃貸借契約が締結されており、その賃借権の負担付で本物件を売買したことを互いに確認し、買主は第6条に定める所有権移転と同時に前記賃貸借契約において、売主が有する貸主としての権利義務の一切を承継します。

2 売主は、買主に対し、前項に基づく権利義務の承継にともない、賃借人◯◯◯◯に対する敷金◯◯◯,◯◯◯円を、第3条(売買代金の支払いの時期、方法等)に定める残代金支払い時期に支払い、これにより買主はその返還債務を承継するものとします。ただし、その支払方法は敷金相当額を売買代金の一部と相殺により支払うものとします。

3 売主は、買主の協力を得て平成◯年◯月◯日までに賃貸人の名義を買主名義に変更することを、賃借人に通知します。

こちらの特約では、賃貸条件を特定するため、賃貸借契約書を添付しなければなりません。賃貸借契約書を紛失していたり、当初から書面化していないような場合は、売買時点における賃借人の氏名、賃貸借期間、賃料等とその支払い方法、敷金の額、賃貸借の目的等の賃貸条件を明記した書面を別に作成し、契約書に添付する処置が必要となります。

第1項は、買主が承継すべき賃貸借契約の内容と時期を確認しています。賃借人は、建物所有者(貸主)が変わっても建物を占有使用している限り、従来の賃借権をそのまま新所有者に対抗することができ、引き続き建物を使用することができます。賃借人と売主との間に約定された契約期間、賃料額、その他一切の契約条件は、そのまま買主に引き継がれることになります。

建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

借地借家法第31条)

第2項は、敷金は売主から買主へと引き継がれる返還債務であると規定したものです。一般的に、賃貸住宅の契約時には敷金が授受され、店舗・事務所の場合には敷金や保証金が授受されます。しかし、敷金と保証金とは、賃貸人が賃借人に対して負う法律的性質は違っています。敷金は、賃貸借契約上の損害担保の目的で実施される金銭で、賃貸借契約と不可分一体の関係にあります。したがって敷金返還義務もそれに随伴して売主から買主へと引継ぐことになります。

賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用または収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。

2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。

民法第619条

ところが、店舗・事務所等の賃貸借契約でみられる保証金は、賃貸借契約によって授受された金銭ではなく、実際に書面化されていなくても、賃貸借契約とは別個に結ばれた金銭消費貸借契約によって授受された金銭であると理解されています(最高裁昭和51年3月4日判決)。保証金の返還債務は、賃貸人が交代しても原則として承継されません。

第3項は、賃貸人の名義変更の手続きについての条項です。名義変更の手続きは、売主と買主が連名で賃借人に通知することで完了します。その際「貸主変更通知書」を使用します。

賃借人対して通知するだけでなく、売主、買主および賃借人の三者で名義変更と契約内容の確認をする必要がある場合は、「貸主変更に関する覚書」の締結を行います。「貸主変更に関する覚書」に貼付する収入印紙は不要です。

②地役権設定登記承諾の特約

地役権設定登記承諾の特約

買主は、本物件のうち別添図面色塗部分の土地が、売主・◯◯◯◯間にて平成◯年◯月◯日付で締結された地役権設定契約にもとづき◯◯◯◯所有に関わる◯◯市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯所在の土地を要役地とする◯◯◯◯のための地役権の承役地となっていることを確認しました。買主は、第8条(抵当権等の抹消)にかかわらず、当該地役権設定登記は除去抹消できないことを承諾します。

地役権とは、ある土地(A土地)の便益のために他の土地(B土地)に設定される権利です。例えば土地が、道路に直接接していなくて(袋地)、他人の土地を通らないと道路に出れないとき、この土地のために他人の土地に設定されるのが地役権です。このように地役権は、「自分の土地を利用するためには、他人の土地を借りて利用しなければならない」というケースに設定されます。A土地を要役地、B土地を承役地といいます。

地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。

民法第280条

地役権は要役地に付随した物件なので、要役地が処分(売買等)されると特約のない限り地役権もともに処分されたことになります。また地役権だけを要役地から分離して処分することはできません。

地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、または要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

民法第281条1項

2 地役権は、要役地から分離して譲り渡し、または他の権利の目的とすることができない。

民法第281条2項

売買物件が、第三者の地役権の目的(承役地)となっていても、承役地に地役権の登記がなされていないときは、地役権者は承役地の譲受人(買主)に対抗できないこととなりますが、その登記がなされている場合はこちらの「地役権設定登記承諾の特約」を使用し、売主から買主へ地役権の負担を継承していただきます。

電力会社のための地役権、分譲地等の共同施設(排水施設等)利用のための地役権等、地役権設定登記の用益権を負担したままでの売買であっても、完全な所有権の状態での売買ではないので、特約が必要となります。地下鉄等のための地上権設定がされている場合にも、同様に特約が必要となります。

地下または空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。

前項の地上権は、第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても、その権利またはこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは、設定することができる。この場合において、土地の使用または収益をする権利を有する者は、その地上権の行使を妨げることができない。

民法第269条の2