台湾人がなぜ日本の不動産を「爆買い」していたのか

ここ数年、台湾人がよく日本の不動産を購入しているという話を聞く。それも「え?こんな価格で購入するの?」という価格だ。「爆買い」と言っても過言ではないぐらい旺盛に購入している。

アベノミクスが始まって以来の東京や大阪における不動産上昇とも大きな関係がある。

そこで下記の点から調べてみることにした。

  • 台湾の不動産市場はどのような状況か。
  • なぜ日本の不動産を購入しているのか。
  • 今後引き続き日本の不動産を購入してくれるのか。

まずは台湾の不動産市場はどのような状況なのかを調べてみた。

 

台湾の不動産市場

台湾で住宅価格が高騰している。民間統計によると、台北など大都市の2015年10~12月のマンション価格は01年に比べて2〜3倍に跳ね上がった。00年代以降の不動産投資ブームなどが影響している。若者を中心に「とても買えない」と悲鳴が上がり、政権批判が拡大。1月の総統選挙などで与党・国民党が大敗する一因にもなった。

(2016年3月29日日本経済新聞夕刊2面より抜粋)

台湾不動産価格推移(マンション)画像byイクラちゃんねる

台湾マンション価格指数

 台湾では特に大都市で住宅価格の高騰が目立つ。不動産仲介最大手の信義房屋によると、同社が6都市で取引した15年10~12月のマンション価格指数(基準値は01年1〜3月)は台北市で2.7倍、中部の台中市では2.9倍まで上昇した。南部の高雄市など他の4都市でも2~3倍だ。台湾の平均年収は日本の半分~3分の2程度とされるが、台北市周辺では日本円換算で3500万~8千万円前後のマンションが取引の主流。一般消費者には大きな負担だ。富裕層向けに1億台湾ドル(約3億5千万円)を超える台湾版「億ション」も珍しくない。

(2016年3月29日日本経済新聞夕刊2面より抜粋)

つまり台湾はバブルなのだ。

台湾の不動産バブルの流れ

  • 2002年に中国人の不動産売買解禁により中国人の投資が急増したことから始まる。
  • 2003年ぐらいから不動産価格の上昇が顕著になる。
    不動産価格が上昇しているので、資産形成としての不動産投資がブームになる。
    また、中国大陸進出で成功した台湾企業のオーナーが、物件を複数所有する動きも広がる。
  • 2007年には台湾新幹線が開通したことで、都市部の一極集中が加速。
  • 2008年に対中融和派の国民党の馬英九政権が誕生し、「中国マネーが流入する」といった思惑も上昇に拍車をかけた。

2008年秋にはリーマンショックがあったものの、馬政権が政策金利を下げ、相続税や贈与税を引き下げたことも、行き場のないマネーが住宅市場に流入し、不動産バブルを形成してきた。

 一方、経済成長の鈍化で年収はほとんど上がらず、住宅価格との差は広がるばかりだ。台湾の内政部(内政省)によると、台北市の住宅価格は00年代初めは1世帯当たりの手取り年収の6倍だったが15年は16倍に達した

台北市内の出版社で働く周宜樺さん(仮名、31)。13年に購入した同市南港区のマンションで会社員の夫(31)と暮らす。3LDKで価格は2千万台湾ドル(約7千万円)。2人の合計手取り年収のざっと10倍だ。20年の住宅ローンを組んだ上、頭金は両家の親に出してもらった。「親の援助が無いと絶対買えなかった」。周さんは苦笑いする。

あまりの高騰ぶりに「値下がりするまで様子を見よう」という消費者が増え、取引が急減している。指標となる15年の建物売買移転件数は前年比8.5%減の29万3千件で、統計開始の91年以降3番目の低さだった。不動産業界も打撃を受け、「15年は約4千店の仲介大手の店舗のうち約1割が閉店した」(信義房屋の曽氏)。

(2016年3月29日日本経済新聞夕刊2面より抜粋)

台湾は日本と比べて住宅価格年収比が尋常ではない。

  • 台北市住宅価格年収比:16倍
  • 日本の住宅価格年収比:5倍

住宅価格年収比とは、住宅価格を世帯(=一家族)平均年収で割ったもので、日本では年収の5倍程度の不動産を購入している計算になるが、それが台湾では16倍ということだ。年収も上がらずに不動産価格だけ上がっていく、これはさすがにバブルと言っていいだろう。

だが、台湾の不動産バブルも既に陰りが見え始めている。上のチャートを見ると台北市のマンション価格指数は2014年をピークに下落し始めていることがわかる。さらに、投機的な取引の抑制に向け、不動産転売時に土地と建物の売却益に一括課税する「房地合一課税」を2016年1月から施行したことで、全体的な価格下落の動きも徐々に出始めている。だからと言ってすぐに「台湾不動産バブル崩壊!」ということが起きるわけではない。

日本全国地価推移画像byイクラちゃんねる

参照:土地代データ

これは日本全国の地価推移のグラフだが、かつての日本もバブル崩壊というのは急に起きたわけではない。徐々に下がっていき、これが色々な意味で、後でボディーブローのように効いてくるのだ。そのため台湾の不動産も急激に下がるわけではない。しかし、台湾の不動産のピークは過ぎたと考えるべきだ

もしあなたが台湾人の投資家だったらどうするだろうか?これだけ不動産が上がっているので、売却したとしよう。既に不動産価格が高すぎて、これ以上価格が上がりそうにないのであれば、不動産で儲かったお金をどうするだろうか?

普通は株に流れる。

台湾加権指数画像byイクラちゃんねる

台湾加権指数

これは台湾加権指数(日本でいう日経平均株価)だが、2015年4月27日に9973.12と15年ぶりの高値をつけている。やはり不動産の資金も株に流れ、株も高値圏にあったのだ。これではなかなか利幅(=利益の幅)は取れないだろう。

株にしても不動産にしても、投資する際には大きく分けて二つの成果を求めて投資する。

  • キャピタルゲイン:資産価値の上昇による利益のこと。購入価格と売却価格の差による収益。
  • インカムゲイン:資産を保有することによって得られる収入のこと。具体的には有価証券(株式・債券)の配当や利子収入、不動産の家賃収入等のことをいう。

例えば、1,000万円の物件で年間家賃が100万円の場合、表面利回りは10%になる。この100万円がインカムゲインだ。それが仮に2,000万円へと不動産価格が上昇した場合、売却すれば1,000万円の利益が出るが、これがキャピタルゲインだ。家賃が100万円で変わらない場合、この2,000万円の不動産の表面利回りは5%となる。1,000万円の利益が出た投資家はさらに儲けようとして、儲けることができそうな不動産を購入したくなる。しかし、価格が上がってしまい、利回りも下がってしまった不動産に果たして魅力はあるだろうか?よほどの価格上昇が見込めないと難しいだろう。

 

なぜ台湾人が日本の不動産を購入しているのか?

台湾不動産表面利回り画像byイクラちゃんねる

参照:global property guided

これは、不動産調査会社global property guidedの各国の不動産表面利回りの資料だ。(2016年4月7日確認時点)87カ国のデータが公開されているが、台湾の利回りが一番低い。不動産価格が上昇しすぎて、利回りが低すぎる状態になっている。それに比べたら日本の不動産が魅力的に見えることだろう。加えて、「2020年東京オリンピック開催!」といういかにも2020年まで不動産が上昇しそうなわかりやすいスローガンもある。

もちろん東京オリンピックも大きな理由ではあるが、一番大きな理由は為替と考えられる。

台湾ドル円チャート画像byイクラちゃんねる

台湾ドル・円チャート

これは台湾ドル・円チャートだ。2016年4月1日時点で、1台湾ドルが3.4820円ということになる。アベノミクスが始まった2012年末から、猛烈に円安・台湾ドル高が進んだ。これが日本の不動産を爆買いしている背景だが、もう少しわかりやすいように、台湾ドル・円チャートを、円・台湾ドルチャートにしてみる。

円台湾ドルチャート画像byイクラちゃんねる

円・台湾ドルチャート

これは円・台湾ドルチャートだ。2016年4月1日時点で、1円が0.2871台湾ドルということになる。わかりやすく計算すると、アベノミクスが始まるころは約0.38台湾ドルだったのでこれを38とし、2015年の夏頃は約約0.25台湾ドルだったのでこれを25とすると、25÷38×100=65.7%になる。つまり、アベノミクスが始まるころは台湾ドルにして日本の不動産価格3,000万円だったものが、価格が同じく3,000万円で変わらないものとした場合には、2015年の夏には65.7%ディスカウントした1,971万円で購入できたということだ。加えて、この不動産の表面利回りを5%とすると年間150万円の家賃収入が入ってくる計算になるが、台湾ドルで購入した場合の表面利回りは、150万円÷1,971万円×100%で7.6%になる。

極端な例を出して説明したが、もしあなたが台湾の不動産投資家だったらどう思うだろうか?「こんなに(台湾にとって人気な国の日本の不動産は)安いのか!」と思って飛びつかないだろうか?

東京23区価格推移

参照:東京カンテイ

これは東京23区の中古マンション販売希望価格(70㎡換算)の推移だが、この不動産バブルには台湾人の投資が絡んでいることは間違いない。2015年末までは順調に上がっていたのだが、足元では価格の上昇が止まっている。この理由は後述する。そうなると、次はまだ上がっていないお買い得な不動産を探してマネーがそこに流入する。

大阪市価格推移

参照:東京カンテイ

それが大阪だったのだ。海外から見た大阪というのは、中国では上海、台湾では高雄、アメリカではロサンゼルスと各国の第2の都市にあたり、非常に位置づけがわかりやすい。これは大阪市の中古マンション販売希望価格(70㎡換算)の推移だが、こちらにマネーが流入しているのがよくわかる。

 

台湾人は今後も日本の不動産を購入し続けてくれるのだろうか?

答えはNOであるもう流れは変わったと考えた方が良い

チャイナショック画像byイクラちゃんねる

上海総合指数

これは中国の上海総合指数(日本でいう日経平均株価)のチャートだが、昨年2015年の夏、中国の株バブルがはじけて暴落(チャイナ・ショック)が起きた。今や中国は世界第2位の経済大国であり、世界経済に及ぼす影響は言うまでもないが、その中でも台湾はより中国に依存した経済となっている。台湾の貿易輸出相手国の40%が中国なのだ(香港を含む)。当然、中国の経済が悪化すると台湾の経済も悪化するし、そもそも台湾に不動産投資していた中国人も撤退し始める。今後は購入より売却の勢いの方が強くなるだろう。そうなると台湾の不動産価格も下落し始める。もうすでに下落し始めているが。

台湾加権指数チャイナショック画像byイクラちゃんねる

台湾加権指数

一方、日経平均株価は他国と比べてチャイナ・ショックではそれほど下がらなかった。

日経平均株価チャイナショック画像byイクラちゃんねる

日経平均株価

アベノミクス以降、日本の株高を演じたのは、日銀がお札を刷りまくったことによる円安と、その円安により世界経済が停滞している中では企業収益が向上したことにより株が上昇し、その株高による消費拡大がその理由であった。上手いこと良い方向に全てが回転していたとも言える。しかし、チャイナ・ショックが起きた時はそれほど株価が下がらなかったが、円安は完全に止まってしまい、半年ほど経つと実体経済へジワジワと影響を及ぼし、企業収益の低下と株の下落をもたらした。中国の景気悪化により世界経済がさらに悪化したことや、日銀にこれ以上円を刷る余力もないと見透かされ、円高へと方向が変わってしまった。(今のところマイナス金利は為替を円安にする効果は出ていない。)

ドル円レートチャイナショック画像byイクラちゃんねる

米ドル・円チャート

このチャイナ・ショックがもたらしたのは、アベノミクス以降の円安が止まり、円高に流れが変わったということだ。日本の円は安全資産とみなされ、世界景気が悪くなると円が買われる(=円高になる)からだ。

円台湾ドルレートチャイナショック画像byイクラちゃんねる

円・台湾ドルチャート

今まで旺盛に日本の不動産を投資してきた台湾人にとって円高は、心理的に大きなブレーキとなる。東京23区のマンションの価格が止まったことからもわかる。日本の不動産価格がさらに上昇するには、現在の高止まりしている不動産価格よりさらに購入の勢いが強くならなければならない。これは円安にならないと厳しいだろう。

この円高の流れを円安に変えるためには、①中国の景気がよくなる(台湾の景気がよくなる。)か、②日本銀行もしくは政府が、強力な円安政策を行うぐらいしかないが、今のところは厳しそうだ。というか手詰まりに見える。

「今も大阪市のマンションは上昇しているじゃないか!」と言われそうだが、不動産購入というのは、実際に引き渡しを受けるまでだいたい3カ月〜半年ぐらいかかる。もちろんピンきりではあるが、台湾人にとっては外国の不動産だ。そのように考えたとすると、今日本の不動産を購入している台湾人は、3カ月より前から日本の不動産購入に興味を持っていた人であり、それまでの円安の流れや日本の不動産価格の上昇を見て決断した人達でもある。これからその投資家の数が爆発的に増えるだろうか?

アベノミクス以降続いてきた日本の不動産価格上昇は一服するだろう

東京オリンピックまでとは言わず、これからもずっと所有していてくれれば良いが、台湾人にとって日本の不動産が投資である以上、出口(=売却)を探している。価格が上昇すれば売却する。

だが台湾人にとっては、価格が上昇しなくても円高になれば為替での利益が出てくる

これからしばらく円高が続き、日本の不動産価格が上昇しないのであれば、台湾人に日本の不動産投資を勧めつつも、アフタフォローとして、既に購入してくれた台湾人に売却のタイミングをアドバイスした方が良いのかもしれない。

 

台湾の住宅市場
大都市での用地不足などから、台湾の住宅は一戸建てでなくマンションやアパートなどの集合住宅が主流。最近の新築マンションは富裕層向けの高級物件が多いため、消費者の7~8割は中古物件を買うとされる。
物件の広さを表す単位は坪(約3.3平方メートル)を使う。例えば「30坪」などと表示されていても、マンション内の廊下などの共有スペースも含まれており、物件の実際の面積は1~3割ほど狭くなる。

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ABOUTこの記事をかいた人

坂根大介

イクラ株式会社代表。1986年大阪生まれ。関西大学文学部卒業。野村證券株式会社に入社し、国内リテール業務を経て、その後三井不動産リアルティ株式会社(三井のリハウス)にて不動産売買仲介を行う。不動産売買取引の契約実務や物件調査の経験をもとに、プロ向けに不動産の調査方法や用語解説、不動産市況、一般消費者向けに不動産業界の見えにくくわかりづらい不透明な情報をわかりやすく発信している。 主な資格は、宅地建物取引士、JSHIホームインスペクター、2級FPなど。