2016年9月21日、日本銀行は金融政策を大きく転換した。
日銀は21日の金融政策決定会合で、長短金利を政策運営上の目標とする新たな金融緩和の枠組みを導入した。マイナス金利政策を維持したうえで長期金利の指標となる10年物国債利回りをゼロ%程度に誘導する。物価上昇率が前年比2%を安定的に超えるまで金融緩和を続ける方針も示した。
(2016年9月22日日本経済新聞朝刊1面抜粋)
新たな金融緩和の枠組みをまとめると以下のようになる。
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正直言ってこれだけでは一体どのように変更されてどのようになるのか全くわからない。実際に発表後の株式市場や為替を見てもどうなるのかわからないので迷っている感じだ。
そこで今回の日銀の決定は、不動産に一体どのような影響をもたらすかについてわかりやすく説明したいと思う。
金融政策を大きく転換した背景
黒田東彦日銀総裁は、低迷する日本経済の原因であるデフレから脱し、2年で物価2%上昇(=インフレ)の達成することを約束として掲げ、2013年4月から大胆な金融緩和政策を行った。具体的には、「黒田バズーカ」と称されるように、市中(民間銀行)にある国債を日銀が買う量的金融緩和を実施した。量的金融緩和については『日銀がヘリコプターマネーをするなら不動産を買わなければならない』でわかりやすく説明しているので参照して欲しい。
野田前首相が衆議院解散宣言した時点で、自民党の安倍現首相が勝利することは確実だったわけで、同時に黒田現総裁が、白川前総裁に代わって日銀総裁に就くことも決まっていた。そのときから「大胆な金融緩和」を実施することも宣言していた。

とりあえず、「日本をインフレにするためにはなんでもやりますから!」感が出ており、「アベノミクス」に期待した株式市場も大きく変わった。

インフレにするということはお金の価値が下がる。当然、円の価値は下がる。為替は円安に大きく振れた。
そのため、結果として輸出企業を中心に大きく利益を拡大した。安倍首相は、賃上げを企業に要請し、利益拡大したこともあって、大企業はそれに応じた。このあたりまでは良かったのだろう。しかし、世界でも類を見ないほど量的金融緩和を行って、約束の2015年4月になっても物価2%上昇は達成することができなかった。
「日本をインフレにするためにはなんでもやりますから!」と感じていた人々も、「あれ?やっぱりできないんじゃないの?」に変わり始める。質的金融緩和として、株(ETF)や不動産(REIT)も購入したし、マイナス金利も導入した。それでも達成できない。
そんなことしている内に、量的緩和政策で、年80兆円というあまりにも日本銀行が市場の国債を買いすぎて、市場に出回る国債が少なくなり、あと1〜2年でもうこれ以上買うことができないんじゃないかと市場から限界が指摘されはじめた。
金融市場では、日銀の異次元緩和が限界に近づいているとの見方がくすぶる。「(国債を大量に買う)量的緩和の追加策はあと1回が限界」(フィデリティ投信の福田理弘インベストメント・ディレクター)との声も出ている。
(2016年8月17日日本経済新聞朝刊3面抜粋)
そこで、日本銀行は今回(2016年9月21日)の金融政策決定会合で、2013年4月から黒田総裁の下で進めた大胆な金融緩和について、①なぜ物価2%が実現できないのか②政策の効果と副作用は何かを分析しする総括的な検証を実施するとしていた。その総括的な検証が以下だ。
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確かに、シェールオイルの増産と、中国を代表とする新興国の需要減のダブルパンチで原油価格は急落した。東日本大震災後、発電の大部分を火力発電に頼っている日本は大きな恩恵を受けた。同時にガソリン価格や原材料価格も安くなったことが物価上昇を妨げたという訳だ。

また、中国の株式市場の暴落により、安全通貨として円が買われたことで円高につながり、輸入価格が下がり、それも物価上昇を妨げたことも事実だろう。
しかし、経済は生き物であり、良い時もあれば悪いときもある。それを踏まえて政策を打つのが日銀なのではないだろうか。なにか言い訳がましく聞こえる。特に消費税増税後の消費停滞を理由にあげるのはどうなのだろうか。実際、量的緩和策第2弾(黒田バズーカ第2弾)は、消費税10%実施を前提として行われたものであり、その後に安倍首相が消費税の10%延期を国民の信を問う形で決めた。消費税10%対策が、8%のままでも黒田バスーカ第2弾を発射してダメだったことになる。
いずれにせよ、これではっきりわかったことがある。2年(3年半経っても)で物価2%目標は達成できなかったということだ。大胆な金融緩和(量的緩和政策)は景気の好転をもたらしたが、マネタリーベースを増やすだけでは、日銀の目標とするインフレをもたらすことはできないということなのだ。(『日銀がヘリコプターマネーをするなら不動産を買わなければならない』参照。)
できなかったので、いや、限界が近いのでもうできないのでという方が正確だろうが、作戦を変更する必要がある。それが「量」から「金利」への変更、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和なのだ。
マイナス金利ともたらしたもの
イールドカーブ・コントロールの前に、マイナス金利の説明して置こう。

マイナス金利前までの量的緩和政策は、
- 日銀が民間銀行の持っている国債を購入する
- 購入代金が民間銀行に支払われる。ただし、民間銀行が日本銀行に持っている当座預金に振り込まれる
- その当座預金は年率0.1%の利子が支払われる
というものだった。どれだけ、日銀が国債を買おうと、紙幣が直接我々の手元に来るわけではなく、その大部分は日銀の中に眠っているのだ。マネタリーベースというのは、民間銀行が日銀に預けている「日銀当座預金」と市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高[紙幣]」+「貨幣流通高[硬貨]」)の合計値のことだ。マネタリーベースは400兆円を超えているが、実際に出回っているお金は100兆円であり、ここ数年たいして増加していない。
増加していない理由は、民間企業が銀行に借金をしてまで設備投資する気がないからだ。そして、民間銀行も倒産リスクを背負ってまで中小企業に貸す気はなく、それなら日銀に預けて0.1%でも利子をもらった方が良いと考えていたわけだ。そこで日銀は、実際に出回るお金を増やすために荒療治をすることにした。これがマイナス金利だ。

マイナス金利導入後の量的緩和政策は、
- 日銀が民間銀行の持っている国債を購入する
- 購入代金が民間銀行に支払われる。ただし、民間銀行が日本銀行に持っている当座預金に振り込まれる
- 預けている当座預金について、民間銀行は年率0.1%の利子を日銀に支払わなければならない
というものだ。お金を預けているだけで逆に金利を支払わなければならないのだ。手数料を取られる形になる民間銀行は、日銀に預けていたお金を企業や個人への貸し出しに回さなければならないようになり、経済活性化が期待されるというものだ。
では実際にマイナス金利を導入してどうなったのだろうか。
金利だけは、日銀の期待どおりに幅広い年限で低下している。[…]しかし、金利の低下が銀行貸し出しの増加に結びついているわけではない。大手行の融資残高は7月末に186兆円となり、3年9カ月ぶりに前年同月を下回った。円高などで景気の先行きに対する不安はぬぐえず、設備投資は盛り上がりに欠ける。企業の資金需要は膨らまない。
(2016年8月17日日本経済新聞朝刊3面抜粋)
大手銀行の企業への貸し出しは増えていないようだ。以前、マイナス金利について筆者は以下のように述べた。
マイナス金利で今から不動産が盛り上がるというより、住宅ローン金利の低下で(20年超)継続して購入の下支えとなっていると言ったほうがよいだろう。
短期的に不動産を盛り上げるためには、住宅ローン審査を緩和して今まで購入できなかった層に購入してもらうことが必要だと考える。地方銀行はマイナス金利導入を受けて、日本銀行にお金を預けることができず、低金利で国債で運用していくこともできず、住宅ローンの借り換えで大手銀行に顧客を奪われて大きなダメージを受けている。どちらにしても巨大な資本力のある大手銀行と同じような審査基準では地方銀行は生き残っていけない。地方銀行がどのような手を打つのか、それが不動産に関わってくるのかを注目している。
(『マイナス金利で本当に不動産は盛り上がるのか?』より抜粋)
実際、マイナス金利導入後に居住用不動産が盛り上がっている様子はない。盛り上がったのは、住宅ローンの借換えと投資用不動産のローンだ。
「投資用マンションを買える顧客の目安は数年前まで年収600万円以上だった。今は銀行審査が緩くなり400万円でも購入できるようになった。」(不動産会社幹部)
成長戦略を掲げる安倍晋三政権の方針に沿って金融庁は銀行に成長企業向け融資を促す方針に転換。日銀もマイナス金利政策に踏み込んだ。だが「効果が実態経済に及ぶまでは相応のタイムラグを伴う」(全国銀行協会の国部毅会長)。運用収益低迷に焦る金融機関の視線は、貸し倒れリスクが高い企業向けよりも手っ取り早く融資できる資金回収も容易な不動産に向く。[…]地銀の今年6月末の事業融資残高は前年比2.9%増。うち2%分は不動産向けだ。信用金庫では2.1%増のうち1.7%になる。
バブル期の銀行は担保不動産の価値を水増し、融資を拡大した結果、不良債権の山を築いた。苦い教訓が残るだけに「融資額は不動産の担保価値の7割まで」といったルールを緩めたと公言する大手行はない。だが、融資の現場では「不動産の担保価値の100%を融資します」といったローン商品でノンバンクが銀行から顧客を奪っている。対抗するため大手行でも厳格な返済条件を課すなどした上で「担保価値の120%貸す裏技も登場している」(関係者)という。
(2016年9月13日日本経済新聞朝刊1面抜粋)
黒田総裁が総括的検証で触れたように、マイナス金利は幅広い期間の金利低下につながり、貸出金利が低下した一方、表裏の関係で、銀行の預貸金利ざや(貸出利回りと預金原価の差)が縮小し、保険会社の運用難をもたらした。
イールドカーブ・コントロールとは?
そこで、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和政策を導入したわけだが、そもそもイールドカーブとはなにか。
イールドカーブとは、満期までの期間が短い国債から長い国債へと利回りをつないだ曲線のことで、横軸に残存期間、縦軸に利回りをとる。通常、イールドカーブは右上がりの曲線を描く。なぜなら、元本を返してもらう期間が長ければ長いほど、金利が大幅に上昇した時には損をするし、その債券を発行した国・企業は倒産するかもしれない。つまり、リスクが大きくなるその対価として、利回りは上がるのだ。

日銀は金利全体(=イールドカーブ全体)を下げるため量的緩和政策で国債を買いまくってきた。しかし、マイナス金利を導入したことで、日銀が旺盛に購入するのに加えて、運用難に陥った金融機関も期間が長い国債を買わざるを得なくなったことにより利回りは低下し、イールドカーブがフラット化してしまった。
日銀は総括的検証で「イールドカーブ(利回り曲線)の過度な低下は金融機能の持続性に不安感をもたらす」と副作用も指摘。[…]もともと地銀が保有する国債はメガ銀などより期間が長いが、マイナス金利政策の導入後は「運用難で20年債など超長期債まで購入するようになっていた」(債券市場関係者)。一時はマイナス圏に沈んでいた20年債の利回りは、日銀の発表をうけて21日には年0.415%まで上昇。地銀は数少ない運用先を確保できた形だ。超長期国債での運用が多い生命保険会社にとっても、今回の変更は運用難から抜け出す一歩となる可能性がある。
(2016年9月22日日本経済新聞朝刊7面抜粋)
このように金利の低下でイールドカーブが平たん(=フラット化)になると、年金の運用悪化などなど副作用が出やすくなる。逆にイールドカーブの傾きが急(=スティープ化)になると、長期資金を借りる際の負担が増え、金融引き締め的な影響が生じかねない。
イールドカーブ・コントロールとは、冒頭で記述したようにマイナス金利政策を維持したうえで長期金利の指標となる10年物国債利回りをゼロ%程度に誘導する(イールドカーブを自由にコントロールする)というものだ。長期金利とは、期間が1年以上の資金を貸し借りする際の金利で、日本では代表的な指標として、財務省が最近発行した10年物国債の流通利回りを使う。長期金利は住宅ローンや銀行融資など様々な金利のベースとなっている。
“リーマン・ショック後、世界の中央銀行が長期金利に直接影響を与えるものを購入し、効果も出ている”
黒田総裁は長期金利の指標となる10年物国債を誘導する枠組みについてこう指摘した。
これまで日銀は「短期金利は金融政策で操作できるが、長期金利は難しい」と主張してきた。日銀のホームページには「長期金利の決まり方」に関する説明がある。将来の物価変動や短期金利の推移を映す鏡としており「市場メカニズムの中で決まる」と違いを述べている。
だが、総裁は異次元緩和の総括的な検証を踏まえ「イールドカーブ(利回り曲線)が全体として非常に下がった」と強調した。マイナス金利政策と国債買い入れを組み合わせると、短期だけでなく長期の金利もある程度、誘導できることがわかったという。[…]
長期金利も目標に加え、量から金利の操作に軸足を移す。総裁は「短期的に資金供給量の増加とインフレ期待が密接にリンクしているわけではない」と述べ、量を目標にした政策の限界に言及した。
(2016年9月22日日本経済新聞朝刊3面抜粋)
日銀には相当失礼だが、わかりやすく書くとこのようになる。

これが、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和だ。大分失礼なのは承知の上なのだが、2年で物価2%上昇を約束して大胆な金融緩和(量的金融緩和政策)を行い、その約束が果たせなかったのだから、このように言われても仕方ないだろう。
で、そのイールドカーブなんちゃらで不動産はどうなるの?
なぜかこちらが「総括的な検証」をしている気分だが、やっとここで本題に入ろう。「不動産はどうなるのか?」だ。
最近、「不動産はもうピークを迎えた」という声があちらこちらで叫ばれ始めている。実際、新築マンションの販売も振るわない。ではなぜ、マイナス金利になってから居住用不動産は盛り上がっていないのに、投資用不動は盛り上がって、不動産価格の高騰が続いているのだろうか。カラクリはこうだ。

「こんな高値、ありえないだろ」。不動産業界の関係者の多くがあっけにとられた。ヒューリックが5月に京浜急行電鉄から取得した東京都港区の大型ホテル「グランドニッコー東京台場」。価格は600億円を超え、日本企業によるホテル場以内の最高記録を更新したとみられる。
カギは「金利低下」だ。不動産は「利回り商品」の側面を持つ。年間500万円稼げるホテルを1億円で買うと、5%の利回りが得られる。「利回りは1%でいい」と割り切れば、購入価格は一気に5億円までつり上がる余地が生じる。「利回りのモノサシ」である長期金利は日銀の金融緩和でマイナス圏に沈む。これに引っ張られる形でグランドニッコーの購入時に利回りは2%台前半と異例の低水準となったもよう。最高値はこの裏返しだ。大規模緩和前のホテル物件(東京都心5区)の利回りは今より2%弱高かった。当時の利回りから逆算すると、グランドニッコーの価格は300億円台にとどまっていた計算になる。ヒューリックは宿泊単価や稼働率を改善させ、利回りを引き上げていく。
「約300億円の当初運用枠はあっとういう間に埋まってしまいましたよ」。日本生命保険の関係者はこう話す。子会社が8月に運用を始めた私募形式の不動産投資信託(REIT)。「日本生命丸ノ内ガーデンタワー」(東京・千代田)などの優良物件に投資する。想定する利回りは3〜4%。これに全国の地銀や年金基金などが飛びついた。運用の主軸だった国債の利回りは、リスクの高い40年物でも0.6%台。超低金利に追い詰められた「運用難民」たち。利回りを求めて不動産投資に群がり、相場をさらに押し上げる。その帰結が不動産開発の急拡大だ。住友不動産は2021年度までに30棟のビルを開発する。延べ床面積は東京ドーム44個分にあたる。三菱地所は東京駅前で390mの超高層ビル開発に着手した。裏腹に市況の雲行きは怪しい。東京都心5区の大規模ビルの賃料は7月まで2カ月連続で低下。オフィス仲介の三幸エステート(東京・中央)は「賃料負担増につながる移転に慎重なテナントが多い」という。
「低金利=不動産高騰」。こんな図式がもっと鮮明なのが、日本に先駆けてマイナス金利を導入した欧州だ。欧州連合(EU)全域の住宅価格指数は1〜3月期に前年同期比で4%伸び、金融危機前のピークだった08年4〜6月期以来の水準を回復した。ドイツやオーストリアなどだけでなく、不動産バブル崩壊で一時は財政危機に陥ったスペインでも住宅価格は上昇。政策金利をマイナス0.5%まで下げたスウェーデンでは住宅価格の伸び率が2ケタに達する。
超低金利を背景に投資マネーが押し寄せ、不動産は利回り商品としての性格を強める。その過程で相場と乖離して実需が置き去りにされるようなら、不動産市場の先行きは一気に不透明になってしまう。
(2016年9月11日日本経済新聞朝刊1面抜粋)
このような状態はしばらく続くとみられる。世界経済全体を見渡しても好調とはいえない中、企業が設備投資に動くとは考えられないので、カネ余り・運用難の中、まだ安定的な収益が見込める投資用不動産には資金が流入するだろう。
また居住用不動産も引き続き高止まりが続くと考えられる。大都市都心部の居住用不動産は実需と価格が乖離し始めているので、バブっていると言うことができるが、不動産はもうピークを迎えたとはいえ、急にバブル崩壊するわけではない。90年代の不動産バブルが崩壊した理由は、不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑える「総量規制」と、1989年5月から1年3カ月の間に5回の利上げが実施され、2.5%だった公定歩合は6%台まで引き上げられたことによる金融引締め策が原因とされている。銀行でカネを借りて不動産売買していた業者は、金利がボディーブローのように効き、不動産を叩き売ってまで資金回収をしなくてはならないようになった。
日銀は今回の金融政策決定会合で、物価上昇率が安定的に2%を超えるまで緩和継続する(オーバーシュート型コミットメント)ことを決定している。これは、仮に物価上昇率が一時的に2%を上回っても、すぐには異次元緩和をやめず、安定的に2%になるまで続けることを約束するものだ。逆説的に読むと、金利は一時的にでも物価上昇2%にならなければ上がることはないということになる。これは借入金の多い不動産業者にとっては実に大きな話で、叩き売ってまで不動産を売る必要がないので、価格下落圧力は弱いと見られる。
不動産経済研究所によると、1〜6月の首都圏マンションの発売戸数は24年ぶりの低水準に落ち込んだ。人手不足に伴う建設費高騰のあおりで、富裕層を除くファミリー向けの売れ行きが芳しくない。
それでも不動産業界に暗さはない。高級マンション「プラウド」で知られる野村不動産ホールディングス(HD)。マンションの即日完売が売り物だった同社の6月末の完成在庫は前年同月の2.2倍に増えた。
「値下げはしない。在庫になっても時間をかけて高値で売る」。強気に転じたのはマイナス金利で資金調達に余裕があるから。野村不動産HDは7月末にコマーシャルペーパー(約1カ月物)で270億円調達した。金利は0.0004734%。ほぼゼロだ。
(2016年9月8日日本経済新聞朝刊1面抜粋)
高止まりが続くと、しびれを切らして高値でも購入する人が出てくる。また、高止まりが続くのであれば、中古物件で「これは今の水準なら比較的安い」と判断して購入する人も出てくるだろう。
住宅ローンについてだが、固定金利については、今のところこれ以上下がることはなさそうだ。
住宅ローン利用者が10年など長期間、金利を固定する契約にシフトしている。(8月)16日で導入から半年となった日銀のマイナス金利政策の影響で、10年固定で年0.3%台という超低金利商品が出てきたのが大きい。変動型を下回る金利を設定する銀行もあり、大手行では全体のほぼ半分、借り換えに絞ると7割強が固定型を選んでいる。[…]
固定型ローン金地は長期金利にほぼ連動している。マイナス金利導入後、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは7月に一時マイナス0.3%まで低下。[…]固定と変動の金利逆転は、銀行が変動金利の指標とあんる短期プライムレート(短プラ)を下げていないためだ。一般的に短プラは日銀が政策金利を変更するたびに見直し、半年ごとに変動型ローンの適用金利に反映する。ただ短プラは中小企業向け貸出金利の目安ともなっており、銀行はマイナス金利導入後も政策的に下げていない。このため、固定より金利が低かった変動に人気が集まる従来の構図は一変。高い金利でローンを借りている人を中心に、低金利と固定の安心感を同時に狙う行動が目立っている。
(2016年8月17日日本経済新聞朝刊5面抜粋)
まさに、上記はイールドカーブがフラット化したことによって起きたものであり、イールドカーブ・コントロールされると、長期金利0%を目標として誘導するので、大きく変動しないことになる。変動金利は、今後日銀がマイナス金利の深掘り(−0.1%からマイナス幅を拡大すること)すれば、下がる可能性がある。しかし、もうすでに0%台の中で上下する世界なので、変動金利ガー、固定金利ガーで、居住用不動産の購入を後押しする力はほとんどないと見られる。
個人の不動産投資は引き続き旺盛だと見られる。銀行からの不動産融資は積極的で、金利の上昇は引き続き抑え込まれるのであれば、イールドギャップの目線も下がると見られるからだ。イールドギャップとは、投資用不動産の利回りと金融機関からの借入金利の差を意味しており、【イールドギャップ(%)=表面利回り(%)-借入金利(%)】で表される。
今の不動産市況最大のリスクは金利の上昇だろう。日銀は長期金利をコントロールできるとしているが、世界でもほとんど実例がない。アメリカが第二次世界大戦中、インフレ・ギャップ(=需要拡大)を抑えつつ、膨大な戦費を低利で調達するために国債利回りが一定となるような価格で買取る操作(釘付け=ペッグ)を行い、ある程度の成功を見た例はある。だが、目標を達成できなかった今の黒田総裁を完全に信用することはできなるだろうか。
「日銀の信頼性には大きな疑問符が付いている」
ー英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)ー
「国策に売りなし」との相場の格言があるので、いくら信頼ができなくても日銀のやろうとしていることにわざわざ逆行しようとは思わないが、実現できず「金利がいきなり上昇するリスクがある」ということは忘れない方が良いだろう。そのイールドカーブとやらで不動産はコントロールできるのか、今後も日銀の動きに注目だ。